AAC2024
ポスター
宮本 武典(キュレーター、東京藝術大学准教授)
佐々木 俊(グラフィックデザイナー)
服部 信治(主催会社 代表取締役会長兼CEO)
応募総数:405点
最優秀賞: 1点
入選: 7点
AAC2024
ポスター
最優秀賞
武蔵野美術大学1年 造形学部
視覚伝達デザイン学科
広告的なデザインの習熟からはなかなか出てこないし出せない提案ですね。デザインをまだそこまで専門的に学んでいない人か、あるいはその逆で「あえて」の脱臼的表現なのか。ちょっと判断に迷うところもあったのですが、最優秀に決まった後にプロフィールを確認すると武蔵美の視デに在学中とのことで、「あ、やっぱりわざとなんだな」と、ホッとした次第です(笑)フォントへのこだわりを外して、平面で立体を伝えることをシンプルにやっていて、若者らしい諧謔味もあり、デザインがどうこうの前に実は僕はその「外し」にセンスを感じました。LINEなどスマホ画面で飛び交う文字・言葉感やスワイプ感もあって、まさに「いま」な感覚から出てきた提案だと思います。AACポスターコンペ歴代受賞作のなかでも異彩を放っていて、これは来年以降、ハードルを上げられちゃったなぁという感じです。つまりレイアウトの巧みさやクライアントの意向に応えることはもちろん、最優秀を獲るにはさらに、「グラフィックデザイン」という領域そのものを更新・拡張する実験精神も求められる、ということです。
(宮本 武典)
今年、はじめて審査をさせていただきました。キラリと光る作品が多数あり、楽しく審査させていただきました。立体アート作品の募集告知ポスターということで、どのように「立体」や「空間」を平面の中で表現するかが課題です。技術はあるのに、過去の受賞作に倣ったようなアイデアであったり、表現の核となる部分が不明瞭だったりする作品が少なからず見受けられました。その中で、北田さんのポスターは、文字の組み方に絞って立体感を示すという他にない新鮮なアプローチでした。反復する言葉が、コンクリートポエトリーのようでもあり、応募作の中で異質でした。「おー、こういうやり方があったか!」と驚かされました。
受賞決定後、一緒にデザインをブラッシュアップしていく過程でも、北田さんの中に備わっているこだわりや美学を感じる場面が何度もありました。こだわりを守りながら、みるみるレイアウトが良くなっていく様子に嬉しくなりました。最優秀賞に相応しいと思います。おめでとうございます。
(佐々木 俊)
ポスターコンペ審査後、佐々木俊氏と最優秀賞を受賞された北田恵一さんが打合せを行い、文字情報に優先順位をつけて、見やすく再配置すると同時に、作品のメインとなる「円柱」らしさの形を追求し、完成させたのが下記右側のブラッシュアップ後の作品です。特色に蛍光を重ねたビビッドな黄色の画面と、それに負けない深みのある黒色とのバランスを検証し、目を引くビジュアルとなりました。
東京藝術大学大学院 美術研究科
デザイン専攻
東京スカイツリーを下から見上げたような奥行きを、繊細な陰影表現でうまく出せていますね。淡い色彩も含め、平面から立体への誘導を端正にデザインしていて、お手本のような秀作ですが、(奥行きだけでなく)ポスターの前面において人の目を瞬時に惹きつけるフックや、学生コンペですから、2024年の「いま」を感じさせるアイデアや同時代感が出せたらもっとよかった。
(宮本)
武蔵野美術大学 造形学部
視覚伝達デザイン学科 2年
自分で木材を切り出して、台に置いて照明を当てて・・・と、PC画面上をマウスでカチカチしているだけじゃなくて、あれこれ試行錯誤しながら手を動かしてデザインしようとしている様子が浮かび、審査委員一同、好ましい印象を持ちました。ただ、まだアイデアもディティールも習作の段階に見えるので、これをベースにもう一歩、小さくてもグラフィックデザインとしての発明がほしかったなと思います。
(宮本)
東京工芸大学 芸術学部
デザイン学科 3年
一目見て、かっこいいポスターだなと思いました。欧文に大胆に重なったグラフィックが清々しいです。色数を極端に絞っていることや、情報要素に大きくメリハリをつけているところも巧みです。学生でありながら、どのようにレイアウトをすればポスターとしての強度が出るかを理解しているようです。「立体アートコンペティション」の告知物としての必然性がやや弱いので、空間や立体を感じさせる演出が明確に示されているとよりよいのかなと思いました。
(佐々木)
多摩美術大学 美術学部
グラフィックデザイン学科 2年
アプローチの多様性を考えると上位に入ってくるのですが、受賞まで至らなかったのは、やはりターゲット設定のズレではないでしょうか。子どものキャラクターも遊具フォントも愛らしく魅力的で作者の力量は感じるのですが、今回はキッズまわり案件ではなく、学生対象の彫刻コンペなので、リアリティーがつながらなかったのは惜しかったですね。
(宮本)
多摩美術大学 美術学部
グラフィックデザイン学科 2年
世の中がどんどんデジタル化していけばいくほど、世の美大生はそれに反発してアナログ偏重になるものです。毛むくじゃらのフォントは、洒落ていると同時に野生味もあり、一見大人しいけど実はそうでもない? 現代の若者たちの姿にも見え、個人的にとても好きでした。現代の彫刻家たちも大理石やブロンズといった従来の彫刻素材が帯びてしまった権威性や、台座の問題をどう考えるのか等々、常に新しい解釈やアプローチが求められるなかで仕事をしています。岩田さんはまだセンスだけでつくれてしまう段階にいる気もするので、そうしたアートなりデザインなりのアカデミックな課題についても理解が深まると、こうしたコンペでも勝ち抜けるのではないでしょうか。
(宮本)
東京デザインプレックス研究所
デジタルコミュニケーションデザイン総合コース
他の応募作にはなかったシックな色調が目をひきました。文字情報の整理の仕方にも作者の工夫が見えます。中央の泡のような物体のイラストレーションが、不思議で思わず足を止めてしまいます。「膨らむ創造」というタイトルがつけられていますが、そのわりには物体が窮屈に収まってしまっている印象があり、勿体無いような気がします。もっと大胆に膨らんでいる様子が感じ取れるとより魅力的にみえたかもしれません。
(佐々木)
武蔵野美術大学 造形学部
空間演出デザイン学科 3 年
揺らいでいる謎の物体写真が、空撮で撮影した巨大な造形物にも。顕微鏡の中を覗いた極小の世界にも見えます。見る側にゆだねる解釈の広さが、このポスターに詩的な魅力を与えていると思います。作者の解説を読む限り、実際は使い込んだ鍋の写真(?)のようで、個人的な身の回りのモチーフをポスターにしちゃう遊び心がよいですね。写真表現が魅力的な分、レイアウトや文字の扱いがもう少し丁寧だとよりよいと思いました。
(佐々木)
受賞者コメント
アートコンペの名称が羅列されることで、円柱という新たな意味が生まれるという点が面白いと思い、文字のみを使って立体を表現しました。ブラッシュアップでの細かな調整で情報が整理され、格段に見やすくなったことに感動し、文字を通した情報伝達の奥深さを知りました。安易な韻を踏んだ題名には、このポスターを見た人が気軽にコンペに参加してほしいという願いを込めています。
この度は素敵な賞をいただき、本当にありがとうございました。今回の貴重な経験を糧にこれからも頑張ります。